春が来たと思ったら、もう暑い。高知の川にはそろそろ鯉のぼりや鰹のぼりが渡され、はためく頃だろうか。
4月18日、気象庁が4月20日から5月19日までを対象とする1ヶ月予報を発表した。それによると「暖かい空気に覆われやすく、特に期間の前半は気温がかなり高くなる見込み」とのこと。ゴールデンウィークに山や川や海に入る方も多いだろうが、冷たい水のこまめな補給や涼しい場所に逃げ込んで休憩するなどして、熱中症にはくれぐれもご注意いただきたい。
川の中の生物の生活も同じように、いやヒト以上に温度に繊細である。
岐阜大学地域環境変動適応研究センターの永山滋也特任助教と原田守啓センター長・准教授らが23年5月に論文発表した研究によると、長良川のアユが産卵のために川をくだる行動は、1日の平均水温が約18℃を下回り、かつ雨が降って川が増水したときに活発になることが明らかになったとのこと。どちらか一方ではなく、段階的な2つの条件が産卵降河のきっかけになる。長良川では、1950年代と比較して、近年はアユの産卵降河が約1ヶ月遅くなっていると言われおり、その理由のひとつとして、水温低下時期の遅れが考えられるそうだ。
夏、四万十川や下ノ加江川に潜っていて、河床から冷たい水が出ている場所にあたったことがある。砂をまきあげるほど明確に湧出している場所もあれば、目には見えないけれど、唇という優秀な水温センサーで探知した場所もあった。後日、漁師さんから、そのような場を「ひえり」と呼んでいて「夏の高い水温から逃れようと魚が集まる避難場所」だと教えていただいた。
冬、四万十川に潜っていた際、妙に温かい水域があった。河床の一部から伏流水が湧出していて、その周囲が特に水温が高く、透視度も高い。漁師さんに聞くと、そこは「ぬくみず」と呼ばれる場で「冬に魚が集まる場所」だとのことであった。
「ひえり」も「ぬくみず」も伏流水の湧出により形成されている場であり、アユだけではなく生物多様性の基盤であるハビタットとして重要な場所である。水中のことは陸上からなかなか気づいてもらえないと思っていたが、地中のことも知ろうとしなくては。「ひえり」や「ぬくみず」は各地の河川にあるはず。教えていただければ幸いである。
愛媛県宇和島市の十本松峠には「一杯水」と呼ばれる湧水があるらしい。地形的に見て、この水は宇和海ではなく、四万十川を経て太平洋に流れ込んでおり、四万十川流域の最西端にあたる(2023年3月28日, 8月5日 高知新聞)とのこと。水や地形や生物に興味ある者としては、なんとかして訪れたいものである。
私事であるが、今月、北海道から富士山麓に転居した。富士山周辺に降った雨や雪は、長い年月をかけて伏流水として地下水脈を流れ、豊富な湧水群や河川となって湧き出している。
川の流れは地上だけではない。山に降った雨は地表面を流れるとともに地下に浸透し、川は地下からの湧水の流入と地下への伏没を繰り返しながら海へ注ぐ。表面水だけを見ていてはいけない。より広域的に立体として理解しないといけないと思い知ったしだいである。
20240424 高知新聞 寄稿