たこのあたま

自身が初めて釣ったマダコ

「どちらかというと、あたまを食べるのよタコは」と、札幌で行きつけの魚屋の親父さんに教えてもらった。

北海道でタコといえば北太平洋に広く分布する世界最大種のミズダコのことである。ミズダコは、道内では真蛸と呼ばれることも多いので少々ややこしいが、標準和名のマダコよりも大きく身が柔らかくて水っぽい。たこしゃぶにすると、その食感は絶品である。

魚屋でタコのあたま(胴部)を購入して刺身にすると、貝柱のような旨みがあり、確かにとても美味しい。個人的にタコは大好物なのだが、てっきり、あし(腕)を味わうものだと思い込んでいたので、とても新鮮で嬉しい体験であった。地域や生物種にあわせて食文化も異なるものである。

2年前、北海道に転居し、スーパーの鮮魚コーナーに、道産ブリがたくさん並べられている光景に驚いた。数十年前に北海道を訪れた時には、私が気づかなかっただけかもしれないが、スーパーで道産ブリを見た記憶はない。そもそもブリといえば、富山県など北陸や九州玄界灘の「寒ブリ」が有名ではなかったか。

そこで、農林水産省から公表されている「海面漁業生産統計調査」の年間漁獲量を見てみると、それまで北海道では数百トンから多くても2000-3000トン程度だったブリの漁獲量が、2011-12年には7000トン台に増えている。13年には10000トンを超え、都道府県別ランキングで長崎県と石川県に続いて第3位に入っていた。さらに、20年には約15000トンとなり、北海道がブリ年間漁獲量トップに位置づけられていた。道理でスーパーにも道産ブリが並ぶわけだ。安易な思い込みは、地域の違いだけではなく、時間の経過によっても崩れていく。

北海道日高山脈の南端に位置し、太平洋に突き出している襟裳岬周辺ではサケ定置網漁が行われている。何度か定置網漁船に乗せてもらい、網あげなどの作業をしながら漁師さん達から話を聞く機会があった。海の水が暖かくなったのか、回遊ルートが変わったのか、海流のせいなのか不明だけれど、いずれにしてもサケがぜんぜん獲れなくなったとのこと。昔はサケやサクラマスやカラフトマスがたくさん入った定置網には、今は大きなブリが群れで入ってくるが、そのブリに良い値がつかないとのことであった。

襟裳の海で話を聞きながら、2年ほど前から高知新聞に3月ころ掲載されている室戸のブリのことを思い浮かべていた。今年は「漁師もうなるうまさ」とのこと。

春が来たブリが来た!室戸市の定置網に脂を蓄え丸々と太ったブリが水揚げされている。昨年 から佐喜浜、椎名、三津、高岡の市内4大敷が「室戸春ぶり」としてブランド化しており、7日にはシーズンの到来を告げる「春ぶり宣言」が出されて漁港がにぎわった。(20240308 高知新聞)

勢いが伝わってくる。室戸に行ってみたくなる。背景にはおそらく多くの方々の苦労があるはずだが、ブランド化が成功しつつあるのではないだろうか。日本海の「寒ブリ」に対して、土佐のブリは「春が旬」らしい。味わえば、思い込みを崩してくれる新鮮で嬉しい体験になりそうだ。

20240313 高知新聞 寄稿

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