「川底の浮いた石を退けると、川エビがふたつみっつ飛び出してきた」
川談義をしている時、年配の方からよく聞かされる川の思い出である。その後は「手づかみで採った」「夜にぬかを撒いて待ち構えた」「キュウリと炊くがよ」「淵が浅くなった」「エビもおらん川はいかん」と、熱量とビール消費量が上昇していく。
資源として、圧倒的なアドバンテージをもつ高知の川。せめて川エビを採って遊べる川を増やしたいものだ。それには「川の環境を再生すること」と「川エビの捕獲圧を下げて回復を促すこと」の両方が必要だと思う。まずできるのは、しばらくは川エビを採る量を減らすことだろう。
高知県では、2018年から「9月から翌年3月末までの7ヶ月間は全河川でテナガエビ類3種の採捕禁止」という保全対策が設定され、毎年更新されてきた。3年の実施を経て、現在のテナガエビ類の状況はどうなっているだろうか。
四万十川西部漁業協同組合のテナガエビ類入荷量をみると、18年46kg、19年74kg、20年206kgと増加傾向にある。嬉しい傾向だ。ただし、10年前の入荷量をみると、08年1849kg、09年2491kg、10年1981kgなので、回復にはまだ遠い。
筆者達が四万十川流域で継続している定量調査結果をみても、本川下流域地点ではほぼ同じ傾向がでている。端的に言うと、現状は「要経過観察」といったところか。
今月開催された県内水面漁場管理委員会で、7カ月採捕禁止措置が21年から3年間延長されることになった。テナガエビ類の個体数がどのように推移するのか、今後も見守っていきたい。川の環境を再生する試みが随所で進められることも期待する。
県内の主な漁獲対象であるヒラテテナガエビとミナミテナガエビは回遊性であるため、海と川の連続性が必須条件となる。堰堤で分断された小河川でも、汽水域から遡上する稚エビたちの行進を妨げない工夫ができれば効果がでることだろう。小河川は子どもが遊ぶのに最適で、エビタマを持って泳ぐ光景が増えてほしい。
一方、稚エビを放流すれば保全になるのではという意見もある。日本魚類学会が策定した「生物多様性の保全をめざした魚類の放流ガイドライン」をぜひ参照してほしい。放流によって保全を行うのは容易でないことを理解し、良かれと思ってやることが逆効果にならないよう、充分な調査検討とモニタリング継続が必要となる。
昨年、すばらしいニュースがあった。中土佐町の松下商店が町と連携し、ミナミテナガエビの種苗量産に成功した。順調なら来年5月ごろに出荷できる見通し(9月19日 高知新聞)とのこと。おそらく地道な試行錯誤を繰り返されたのだろうと想像する。居酒屋などへ安定供給可能となれば地域の雇用促進につながるのではないか。期待大である。
新型コロナ禍で釣りやキャンプ人気に火がついたらしい。また、遅々として進まなかったデジタル化が一気に加速し、都市部の企業や社員は通勤コストの無駄に気がついてしまった。今のうちに自然資源を高めておくことで、高知にチャンスが訪れるのではと妄想してしまう。
20210224 高知新聞 寄稿