季節を探す

お尻を光らせながら水路から上陸してくるゲンジボタルの幼虫

しとしと降る春の雨。サンダルを履いて夜の散歩に出てみると、ゲンジボタルの幼虫がお尻を光らせながら川から上陸してくる光景にであうことがある。

筆者が初めてゲンジボタルの幼虫を撮影したのは2019年3月19日。近所の詳しい方に聞くと、毎年3月中旬頃から上陸を開始しているそうだ。

今年も3月20日に宿毛市の男性がFacebookに美しいホタル上陸写真を掲載されていた。また、湿度と気温が高かった3月28日にも観察されたと高知新聞に記事が載っていた(4月2日)。

年度末の室内作業に追われて、つい季節感を失いそうになるけれど、おかげで「もうそんな季節なのだなあ」と体内時計を補正することができる。また、このような話題が一般向けニュースとなることに「豊かさ」が感じられるものだ。

昨年11月10日、気象庁は「令和3年1月より生物季節観測対象を植物の6種目9現象に変更する」と発表した。

生物季節観測とは、堅苦しい名称だが、身近な例として、主にソメイヨシノの開花日を記録した「サクラ前線」がある。

今年、高知のサクラ開花観測日は3月15日で、平年より7日早く、東京は3月14日と平年よりなんと12日も早かったそうだ。高知の開花日が東京より1日遅かったことに、なぜか悔しい思いもする。

また、宿毛市は3月10日に開花宣言しており、他に「いや三原村のサクラのほうが早かった」という話も聞くなど、生物季節観測は生活に根ざした地域固有の季節の便りでもある。

生物季節は、サクラだけではなく「ウグイスの初鳴」「ツバメの初見」「ホタルの初見」「クマゼミの初鳴」など、植物34種目、動物23種目を対象として観測されてきた。1953年から全国の気象官署で統一基準で進められ、実に67年間にわたる記録が蓄積されてきたことになる。

それが昨年11月の発表では、今年1月から動物の観測はすべて廃止となり、サクラやウメなど植物6種目のみに限定されることになった。この発表は新聞などでも取り上げられ、観測種目と同時に、生活の豊かさも減少するかのような寂しさがつきまとっていた。

ところがその後、新たな仕組みで、対象外となった種目についても観測継続されることになった。一般の方や気象予報士など多くの関心を呼んだことや、日本生態学会など計27の生物系学術団体が合同で「気象庁による生物季節観測の変更の見直しを求める要望書」を提出したことも影響したのだろう。

3月30日の報道発表「生物季節観測の発展的な活用に向けた試行調査の開始について」によると、気象庁と環境省および国立環境研究所が協力しあい、市民参加型調査も取り入れられることが検討されている。

楽しそうな試みである。なにより生物多様性を育む空間が身近にあることが豊かさの源泉だろう。そんな空間を再生する試みもおもしろいはず。

ゲンジボタルは、幼虫上陸後40-45日間で成虫となり、雄と雌の光のコミュニケーションが繰り広げられる。その頃また夜の散歩に出てみよう。皆さんの地域では「ホタルの初見」はいつ頃になるだろうか。

20210421 高知新聞 寄稿

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