夏から秋へ

大型個体は「木こりガニ」とよばれることもあるモクズガニ

 

流れている時間をなぜ細かく刻むんだ? 川の水を手ですくってもそれは川じゃないだろ。

これは、インド人が発したフレーズらしいが、詳細は不明。何か大切なことが含まれているようで、よく考えるとどこか違うような、妙に気になるフレーズである。まあできることなら大きな川のようにゆったりと流れていきたいものだ。

現実は、細かく刻まれた時間に追われることも多い。締切時間を目前に急ぐ書類作成やスクランブル発進のような緊急対応は、果たして未来へつながるものかどうかを考える余裕もなく進めるしかない。それでも自然に目をやると季節はちゃんと移りゆくことに気づく。

今年は暑い夏だった。7月27日、世界気象機関などは「2023年7月は観測史上最も暑い月になる」との見通しを発表し、国連のグテーレス事務総長は、同日の記者会見で「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が来た」と危機感を表した。欧州連合の気象情報機関コペルニクス気候変動サービスの報告書によると、今年6-8月の世界平均気温は16.77℃で、観測史上最も暑い3カ月間となったそうだ。

今夏の平均気温が1898年の統計開始以降で最高となる見込みと気象庁が明らかにした。(20230828 高知新聞)

北海道ではエアコンがない家も多く「窓を少し開け換気扇をつけて台所の前にキャンプマットを敷いて寝ている」同僚や「暑い日は小屋に逃げ込む」という日高地方沿岸に住む人の話も聞いた。小屋は昆布の乾燥用で、品質を保つためエアコン完備なのだ。

9月に入るとやや空が高くなり、秋の虫の声が聞こえ始めた。高知では、そろそろツガニが川をくだり、イタドリの花が咲きだす頃だろうか。

ツガニは、標準和名でモクズガニとよばれる回遊性のカニだ。寿命は3-5年程度。秋になると成体が川をくだり始め、沿岸域で産卵する。少数の早期成熟群が9月から12月に、多くの後期成熟群が12月から春頃に交尾を行うそうだ。繁殖期は生涯に1度で、産卵後は川に戻ることなく雌雄ともに死亡する。

孵化したゾエア幼生は海域に広く分散する。5 回の脱皮を経て、遊泳能力のあるメガロパ幼生に変態し、大潮の満潮時に川に入り込んで底生生活に移行する。やがて稚ガニとなって成長しつつ川を遡上する。上流ほど個体数が少なく、成熟サイズが大型化する傾向があり、上流域で見られる大型個体は「木こりガニ」とよばれることもある。

数年前、東京から来高した友人達を連れ、帰る時間が迫るなか三原村へどぶろくを買いに行ったことがあった。その時、農家民宿のご主人が茹でたてのツガニをたくさんくださり、友人達は感激とともに帰路のビジネスホテルで夢中で食べたらしい。三原村のファンになったとのこと。

気温のような瞬間計測値の蓄積から示される大きな変動。海で生まれ川を遡り、幾多の生存競争を経て「木こり」になるツガニ。自分用に茹でた旬の味覚を急に来訪した人達に分け与える優しさが未来につながる可能性。

そんなことを思いおこすと、手ですくう川の水も川なのかもしれないな。

20230913 高知新聞 寄稿

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