彼を知り己を知れば

指の先にとまったニホンミツバチ

我が家のニホンミツバチ

 

とうとう本州上陸。

今月18日、山口県防府市で特定外来生物ツマアカスズメバチが確認された。九州では侵入が確認されていたが、本州で見つかったのは初となる。[11月21日 高知新聞Web版]

本種は、東南アジア、中国、台湾、南アジア等に自然分布するスズメバチ科スズメバチ属の1種で、その色彩形態から12−14亜種に分けられている。このうち1亜種が韓国や欧州に人為的に侵入拡大しており、生態系への影響、養蜂や農業への被害が生じている。

趣味の養蜂を楽しむなかで、筆者も数年前からツマアカスズメバチ分布拡大の噂を聞いていた。本種は狩猟対象としてミツバチを選好するという文献もあり、欧州ではセイヨウミツバチコロニーへの大きな影響が報告されている。

本種の分布は、2013年韓国、04年フランス、06年スペイン、08年ポルトガル、12年ベルギーと拡大し、16年にはイギリスでも確認された。

日本では、12年に長崎県対馬で初確認された。15年北九州市、16年日南市、17年壱岐市、18年大分市と続き、19年防府市で本州初確認となった。現時点で定着しているのは対馬のみで、急ピッチで調査や防除対策が進められている。

とても気になることがある。以前、特定外来生物であるヒアリが日本で発見された際、一般の方が在来アリ類をヒアリと間違って殺してしまう事態が発生したそうだ。

生態的地位(ニッチ)が競合する生物種や捕食者が多数いることで、つまり生物多様性が高く、それらの関係が複雑であることで、生態系の安定が維持されやすいと考えられる。今回も見かけが似ているというだけで他種がむやみに殺される事態が発生しないことを強く願う。

もしスズメバチ類を見かけた時は、自身の安全を確保したうえで、特徴をよく確かめてほしい。離れた場所から撮影できれば、記憶と記録に役立つはずだ。

ツマアカスズメバチは全体的に黒っぽい体で、腹部の先端がオレンジ色と特徴的な色彩をしている。大きさは、女王蜂30mm、雄蜂24mm、働き蜂20mm前後で、オオスズメバチやコガタスズメバチよりもずいぶん小さい。

生態的には、キイロスズメバチによく似ている。春に越冬から目覚めた女王蜂が低木や茂み等に単独で巣を作り、働き蜂が増えてくると、樹木など高い場所に引越しする。巣は長径1mに達し、驚くことに秋には数百個体の新女王蜂が生まれるそうだ。おそらくこの旺盛な繁殖力が強い拡散力につながっているのだろう。

日本ではハチに刺されたことが原因で毎年20名前後の人が死亡している。その多くはキイロスズメバチやオオスズメバチに刺されたことによるアナフィラキシーショックが原因とのこと。筆者もミツバチ巣箱を守るためにオオスズメバチに刺されたことがあり、先日検査を受けてみると、ばっちりハチ毒抗体反応がでた。

孫子の兵法によると「彼を知り己を知れば、百戦殆ふからず」という。何事も冷静に対応したいものだ。不用意に近づくことなく、不必要に怖がることもなく。

20191202 高知新聞 寄稿

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