近年、生物多様性に対する解像度が急速にあがってきた。基礎的な知見が長年にわたり蓄積された後に、新たな解析技術が発達したことに起因している。
生物種については、これまで形態で区別できる生物を種として認識することが多かったが、遺伝解析が進むことにより、1種だと思っていた生物が実は種分化していたことが判明した。
特に小型サンショウウオ類をめぐる新知見の更新は驚きだ。昨年6月にトサシミズサンショウウオが新種として認められたことは記憶に新しいが(2018年6月16日朝刊)、その後も発見は続いている。今年2月に公表された松井正文・京都大学名誉教授らの論文を拝見すると、西日本に広く分布する1種と思われていたカスミサンショウウオについて、DNAや形態を精査した結果、7種の新種が認められ、すでに学名がついていたヤマトサンショウウオを加えて、少なくとも計9種が存在することがわかったとのこと。
トサシミズの生息が最初に確認されたのは1972年のこと。カスミについても、以前から、違うタイプが複数いることに気づき、基礎的な知見を長年蓄積してきた方々がいたからこその発見でもある。遺伝解析によって、その方々にしか見えていなかった解像度の高い風景が一般化されたともいえる。
生息地確認については、地理情報システム(GIS)や、4月1日に本コラムで紹介した環境DNAの技術発達がめざましい。
今年8月、GISと環境DNAを組み合わせた論文が国際科学誌に掲載され、著者12名のうち筆頭を含め6名が執筆当時高校生だったという点でも話題となった。坂井雄祐・現東京大学学生らによる原著論文を拝見すると、岐阜県に生息するヤマトサンショウウオを対象として、GISを用いて好適な生息環境となる候補地を絞り込み、環境DNA分析により生息可能性を推定した上で現地調査を行った結果、これまで県内に3箇所しか知られていなかった生息地に加え、新たに4箇所目を発見したとのこと。
生物多様性に対する解像度があがると、その背後にある地殻変動や生物進化といった大きな時間の流れに気づくことになる。自分がすむ地域の固有性や資源を見つめ直すきっかけになる。
今後の保全にも貢献するだろう。ただでさえ少ない環境保全予算と時間を、優先順位の高いターゲットに向けることができる。また、大きな時間への敬意をもたない放流行為は、良かれと思ってやっていても逆効果となることに気づくことにもなる。
今夏、高知市にあるわんぱーくこうちでは、トサシミズサンショウウオなど11種24個体を集めた「日本のサンショウウオ展」が開催された(8月2日総合版)。違いのわかる子どもが育つ大切なきっかけになったのではないだろうか。
解像度をあげよう。風景が変わる。
20190930 高知新聞 寄稿