ヒトのふるまい

夏の朝から元気なクマゼミ

写真はアブラゼミ。サクラの木によく見かける気がする。

夏の終わり、朝仕事をしていると、4時すぎからカナカナカナと涼し気なヒグラシの鳴き声が聞こえてくる。しばらくすると、7時頃からクマゼミのロックが始まり、午後になると演歌調のミンミンゼミの大合唱になり、ツクツクボウシがポップな節回しで歌いあげ、日が暮れるとまたヒグラシが鳴き始める。

そういえば、6月頃にはニイニイゼミが鳴いていた。季節が進むにつれて、ヒグラシ、クマゼミ、ミンミンゼミ、ツクツクボウシと鳴き始める種類が変わる。地域によって種類や順序は異なるが、どうやらセミたちは時間的・季節的に棲み分けているらしい。

特に、クマゼミとミンミンゼミは、鳴き声のベースが同じということもあり、生息地域や時期をうまくずらしているようだ。なぜ、どちらか一方の種類が独占してしまわないのだろう。

地球に生命が誕生してから約38億年。その間に自然選択という試練を経て、変動し続ける環境に適応することができた生物だけが今生存している。その過程にはさまざまな生き残り戦略があったはずだ。「強いものが生き残るのではなく、環境変化に対応できたものが生き残る」といわれるように。

現在、身近にみられるセミの棲み分けは、長い進化のなかで最適化された現象なのだろう。他にも「共生」や「寄生」などの関係がある。さまざまな戦略をとることで、多様かつ変動し続ける環境に適応し、自身が生き残ることができたのだ。ヒトはどうだろうか。

ヒトは動物や魚を過剰に殺すことで、地球の自然界のバランスを乱す「スーパー捕食者」だとする研究報告が米科学誌サイエンスに発表された(20150821高知新聞)。この研究報告では、世界の動物2125種の捕食パターンを比較分析し、動物の絶滅・個体数減少・小型化、地球規模の食物連鎖の崩壊といった結果を招いていると警告している。

食用でなくても殺す場合もある。例えば象牙取引など。それに対し、次のような措置がとられている。国連総会は野生生物の違法取引撲滅へ「断固とした対策」を講じるよう各国に強く促す決議を採択し,取り締まり強化や法的整備を急ぐよう各国に求めた(20150818高知新聞)。持続可能性を考えると、生物を管理するというより、利用と保全の両面から生物資源に対するヒトのふるまいを見直すことが大切なポイントであることがわかる。

生物は環境条件がよければ自ら個体数を増加させる。いわば預金が利子を生むようなもので、元金に手をつけなければ半永久的に利子分を利用し続けられるはず。

実際問題として難しいのは、個体数の把握が困難(元金額が不明)、増加率は生物種や環境変化によって大きく異なる(利子率が大きく変動)といった不確実性に対応しないといけないことだ。そのためには安全率をみながら根気よくモニタリングをして順応的に対応していくしかない。

テナガエビ類2種の保全生態研究を進めるなかで、流域の方々と話をする機会も多い。「これ以上減少しないようなんとかしたい」「この計数データを使っていいよ」と言ってくださる方々がいる。「卵を持ったメスは再放流している」という川漁師さんもおられる。「大量に捕るやつがおらんか川をみはっている」という地区の方もおられる。

美しいヒトのふるまいに出会える嬉しい瞬間である。

20150831 高知新聞 寄稿

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