ナマズに注目

四万十川で潜水観察をしていると,最近どうもナマズ出会うことが多くなった。深い淵の底をのぞきこむと,岩の影や沈木の下などノッソリと横たわっている。複数の個体が並んでいることもある。テナガエビ類の調査をしている際も,主春から初夏かけて抱卵した大きな腹のナマズがニンマリと顔を出す。

ナマズは産卵に際して氾濫原環境を必要とする魚類である。湖沼では岸近くの水草卵を産むこともあるが,多くの場合,増水した河川敷や水田,湿地帯などへ移動し,親魚の背が出てしまうほど浅い砂泥質の場所で,雄が雌巻き付いて産卵する。卵の大きさは周囲のゼリー状物質も含め 4-5mm程度。水温20℃-30℃で,2日-4日と比較的短い日数でふ化する。四万十川でナマズをよく見るようなったのは,このような環境条件を持つ一時的水域が増えたのだろうか。それともほか要因があるのだろうか。

4月10日,四万十市西土佐江川崎道の駅「よって西土佐がオープンした(20160411 高知新聞)。農産物や食品などを販売するほか,地域の食材を使ったケーキ屋「ストローベイルSANKANYA」や,四万十川の水産物を扱う「鮎市場」が併設されている。盛況で,5月末は来場者数が40,010人を超えた(20160531)。4月末寄った際,「ナマズのフライがすごく好評!」と教えてもらった。ウナギやテナガエビ類の漁獲量が減少する中,ナマズ注目し,本来の味を楽しめる商品化を進めた関係者脱帽である。

山崎武氏の「四万十 川漁師ものがたり」をみるとナマズついて「あまり好んで食用とする人もなく,漁師仲間もこれを目的として漁をする人はない」としつつも喜んで食える料理としてナマズのたたきと刺し身が紹介され,はえ縄やナマズ用の特殊なかご漬け方法など,漁具ついても考案されている。特筆すべきは「時代の移り変わりより,それらも利用される時もくるであろう」との文である。変化対応しつつ,川とうまくやっていく知恵が見え隠れしている。

日本ではナマズのほかギギやアカザなど計10種が知られている程度であるが,ナマズの仲間はとても種類の多いグループである。世界の魚類を分類学的整理したジョセフ・S・ネルソン氏の「Fishes of the World」でナマズ目の欄を見ると,第3版(1994年発行)では2,405種,第4版(2006年)では2,867種,第5版(2016年)では3,730種と,研究が進むほど多くの種が確認されている。つい先日(20160614)も南米で新種関する論文が報告された。この多様性が各地の食文化としても根付いている。

ガンジス川の下流域(バングラデシュ)で民族生態学的な調査をしていた時のこと。フィールドから帰ると,宿のお母さんが「ゴート? チキン? フィッシュ? 今日はどれにする?」と,夕食の希望を聞いてくれる。もちろん味付けは各種スパイスを駆使したカレー味。魚を選択してナマズ類が出てきた時は喜んだものである。脂ののった白身で,味が深く,コイ類のような小骨がないので食べやすい。ナマズ類の一種であるヒレナマズいたっては「食べると体良い薬のようなもの」だと近所のお兄さんは言い,際高い単価でやりとりされていた。

縄文時代の遺跡から骨格が出土するほどヒトと関わりが深く、高度な種分化を持ち,各地で食文化としても根付いているナマズ類。ユーモラスで親近感を覚える彼ら今後も一層の注目を。

(20160620 高知新聞 掲載)