どうせなら自分たちで

間伐材と土嚢で作った魚道

プロトタイプとして間伐材と土嚢で作った魚道

自然再生という概念がある。過去に損なわれた自然環境を積極的に取り戻そうとする行為であり、世界各地でプロジェクトが進行している。

例えば、フロリダ州エバーグレーズ湿地では、1950年代から始まった農地開発や河川直線化などによって、乾燥化や水資源の悪化がおこり、湿地生態系が大きく損なわれることとなった。そこで、州と連邦政府は90年頃から河川の再蛇行化などに着手し、2000年には総合再生計画が採択された。

2011年に現地にて州の研究者から事業計画について教えていただく機会があった。四国の約1.5倍の面積、30年以上の実施期間、約80億ドルという予算を見込む、極めて大規模かつ包括的な自然再生プロジェクトとなっていることに驚かされた。

大規模なことはできないかもしれない。けれど、小規模な自然再生ならできるのではないだろうか。どうせなら自分たちで。そのように考えて開始したのが、土佐清水市の三崎川における小さな自然再生プロジェクトである。

堰で分断された生態系の復活を探ろうと、土佐清水市三崎の三崎川に河川生態や土木設計の専門家らが魚道を設置し、近く実証実験を始める。ハゼ類やウナギの遡上時期を念頭に、設置は来年6月までの期間限定ながら、設置前後の生態系の変化を1年間かけて検証。成果が出れば魚道の必要性を議論する好材料となるだけに、メンバーは「どのような変化が出るか楽しみ」と見守っている(20141225 高知新聞)。

三崎川は、1944年に河口が竜串湾に付け替えられ、その後も堰堤や護岸工事が進められた結果、魚類やエビカニ類の遡上が難しい状態となっている分断化の著しい河川である。特に、河口から約550m付近にある第一堰堤には、約1.4mの垂直落差があり、竜串湾から遡上してきた魚類等の移動阻害となっている。ここに手づくり魚道を設置することにより、生態ネットワークの回復をはかるのが目的である。

実施主体は「研究会はたのおと」の有志たちである。新聞記事には「専門家ら」と記されているが、実際には川に興味ある多くの有志が実行したものだ。事前調査と設計を進め、河川法手続きをおこなった。土佐清水市の後援協力があり市長も作業に参加してくださった。地元の森林組合から間伐材を購入した。堰堤に堆積した土砂を活用して土嚢や石組みをつくり、三崎川上流の山から切り出された間伐材を組んで、幅1m、全長14mの手づくり魚道が2015年1月に完成した。

自然再生事業を実施するうえで大切なことは、大規模でも小規模でも変わらない。自然環境の現況と課題をしっかりと把握したうえで計画をたてること、時間・予算・協力体制を確保すること、事前と事後を定量的に比較できる仕組みをつくって順応的管理ができることなどであろう。

今回は偶然順調に進んだ。「納屋飲み」と称して普段から飲み会をしていたせいか、参戦する有志各位がもつ興味や得意技が発揮された感が強い。2013年9月から1年間毎月、有志で毎月生物調査をおこなってきた経験と定量データがあり、事前と事後の比較や順応的管理に活かすことができる。それに加えて、行政の協力があったおかげだ。

協働のスタイルは各種ある。「行政主導・市民参加」と「市民主導・行政連携」のふたつを例にあげると、どちらのスタイルが良いかは取り組む事業の性質によって異なる。エバーグレーズのような大規模事業は行政主導が必須であろう。今回の手づくり魚道についても「行政がやるべき」という意見もあるようだ。

しかしながら、小規模であれば「市民主導・行政連携」という協働スタイルのほうがうまくいくのではないだろうか。ただし、どちらも主導側に信頼性やマネジメント能力が要求されるのは変わらない。

キーワードは「主体性」だ。どうせなら自分たちで。今回も設置したら終わりではなく、実践的環境学習拠点のひとつとして、魚類やエビカニ類による利用状況を観察し、試行錯誤を繰り返して得られた知見を地域の研究発表会等で公表していく予定である。

20150302 高知新聞 寄稿

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